HISTORY
私がドクターに
なったきっかけ
ここでは少し私自身の話を書いてみようと思います。自分のことを書くのは恥ずかしいですが、自己紹介の意味も含めて、少しだけお付き合いいただければ嬉しく思います。
私が歯科医師になろうと思ったきっかけのひとつは、小学校から中学校まで、歯科医師である伯父のところへ矯正治療のために通っていたことです。
しかし最も直接的な原因は地元のプラモデルコンテストに出した自分の作品が1位になったことでしょう。私は4歳からピアノを習っており、指が良く動くこともあって器用だと親や周囲の大人たちに思われ、お土産でよくプラモデルをもらっていました。もらったプラモデルを作って、くれた人に見せると喜ばれるのが嬉しくて、ピアノよりもプラモデル作りの方が得意になっていたのです。
恥ずかしい話ですが、このことに親と親戚は、間違いなく手先が器用と思いこみ、歯科医師の伯父までもが「(歯科医師に)向いている」と太鼓判を押したのです。自分でもその気になってしまい、その時初めて、歯科医師という職業を意識しました。高校に進学すると、もうそんなことはすっかり忘れ、クラブ活動のサッカー漬けの毎日でしたが……。
しかし何の因果か、本当に歯科大学に行くことになりました。ただし勉強には打ち込まず、北海道まで自転車で行ったり、友達と海や山に、またその費用を稼ぐのにアルバイトの方が忙しい毎日という有様。幸い留年をすることもなく、国家試験も一回で済んだのですが、必要なところだけ、無駄な労力は使わないように、というような効率重視、試験対策のための勉強方法で、まだ自分も世の中で暮らしていく、また世の中に貢献する、といった「仕事」という考えはない状況のまま研修医時代に突入してしまったのです。
私は、患者様のお口の健康を通じて、口だけでなく、患者様の全身の健康に寄与できる歯科医師になりたい、と思っていました。そのためには、漠然とですが、最初から専門分野を学ぶのではなく、全身の中の口という分野の専門家になることが必要だと考え、医学部の付属病院を研修先に選び、そこで研修医をスタートすることになりました。
私の歯科医師としての人生は、まず医局の先輩ドクターのお手伝いや見学、週に何度かある手術の手続き書類を揃えたり、というところから始まりました。私は物覚えも決して早いとはいえず、社会人としての覚悟も定まっていなかったため、怒られることもしばしばありました。
歯科でも口の中にできものがあったり、顎の骨を折ったりすると手術が必要です。そのため、術前検査や手術が終わった後の容体を確認に行ったり、また、糖尿病などの全身疾患が適切にコントロールされているか確認のための採血など、入院患者様の病棟に出入りすることがありました。その頃の私は新人で、技術も現場の知識もないので、やることと言えば歯科診療の補助や検査の採血、手術の補助くらいです。医局という歯科医師の控室のようなところには自分の机もなく、居場所もありません。しかし暇そうにしていると怒られます。
そんなときの逃げ場が入院患者様のところでした。
入院患者様のいる病棟に行けば、さまざまな方とお会いすることができ、刺激を受けることができました。歯科ではお口の周りの病気やケガで、お食事をうまく摂ることができなかったり、制限がある方が多かったのですが、それでも退院が近くなってくると、お見舞いに食べ物を受け取っている方が多かったように思います。他の科でも、食事ができる方へのお見舞いの品はやはり食べ物が多かったそうです。また、食べられなくても、
「退院したらあそこのお店の、ケーキ食べに行こうね」
「あそこの親子丼が食べたいな」
など、食にまつわる会話が一番多かったような気がします。今まであまり食にこだわっていなかった私にとって、このことは正直意外でした。映画を見たいとか、お洒落な街に行きたいとか、泳ぎに行ったり、遊びに行ったり、そういったことの欲求の方が強いと思っていました。しかし、入院をされるような不調のある方は40~60代以降の年代の方が多く、そうなると、美味しいものを食べるというのは身近で、とても幸せな優先順位が高い楽しみのようでした。
そんなことを考えるようになってから過ごすようになると、外来(患者様を治療する施設がある場所)入院患者さんが来ると親しみが湧いてくるようになりました。外来では、ただ歯科のカルテだけを見るのではなく、もともとの科のカルテ(例えば内科などから、どこそこを治療して欲しいなどの依頼の場合には依頼元のカルテが付いている事が多くありました)も目を通さなければいけません。
いろんな患者様がいらっしゃいましたが、やはり気になるのは管がいっぱいついている方です。カルテを見ると完治はむずかしく、命には限りがある、と想像に難くない病名もあります。そんな方たちの願いは外には出られないけれど、少しでも食事をおいしく食べたいということでした。入れ歯などはつくるのにも時間がかかり、調整も時間がかかります。保険診療のように制約があればなおさらです。
そんなとき車椅子で看護師に押されて来る方が、「きちんとしておけばよかったなー」などとこぼしているのを耳にしました。担当の看護師にはグチもこぼせたのでしょう。そうすると看護師も「娘さんのお稲荷さん食べられるようになれるといいね。」などと返しています。
そうなのです。入退院を繰り返している方や、最後の晩餐とまではいきませんが、それに近い方は、有名なおかしや、料亭の豪華な料理などではなく、思い出の料理、正確には思い出の料理にまつわる記憶が大切なのだと思い知りました。
「これを食べて運動会いったね。」
「お正月はいつもこれだったね。」
「いつもちょっとしょっぱいよ。でもこれがうちの味だもんね。」
などいろいろ言いながら、話しながら、記憶を、大袈裟に言えば、人生を辿っているのです。この時私は、自分の選んだ「仕事」は人々にとってかけがえのないものだ、と確信を持ち、人生のスイッチが入ったような気がします。といってもすぐに技術も知識も習得できるわけでもなく、またできない自分にもうんざり気味だったので、すぐに優等生になれるわけでもありませんでしたが。少しずつでも患者様に貢献できると思えるまでには時間がかかりました。最初の研修先は、家庭の事情で長くは研修できませんでしたが、「食のあり方」や「人生の中でのお口の健康」を考えさせていだだきました。
ドクター・ハロルド・ワース の言葉に、
『人間にとって、口は会話を楽しみ、愛を語り、しあわせ、よろこび、怒り、悲しみを表す。口は愛の入り口であり、たべものをとり、生き、そうして人間は栄えていく。だからこそ、口はどんな犠牲を払おうとも、十分な注意と管理を受けるだけの価値を持っている。』というものがあります。
彼は「すべての歯は他の臓器と同じく生涯とともにあるべき」と唱えた方ですが、私も同感です。
私はその後新しい治療法を習得するのに研鑽を積み、お口の健康のスペシャリストになるべく努力を重ね、ときにはアメリカやヨーロッパにも研修にも行きました。技術、知識は自分の努力でどうにかなりますが、問題は患者様である「あなた自身」がいかにお口の病気に向き合うかです。歯や顎の骨の価値を知り、心から「お口の健康」があなたの人生とともにある。=「口福」を手にれたいと思うかが非常に大切です。
しかし歯科医療は医療者側が手を加える「外科処置」が一般的な、今までの「古典的伝統を引き継いだ歯科医療」では「DULILE(削る)FILL(詰める)BILL(請求する)」という原則に従って対症療法を繰り返すだけで、「あなたの思い」「あなたの個別の状況」リスク判断からわかる「現在から将来への可能性の幅」など、あなた自身が自分の臓器、もっと簡単に言えば自分の体をどの程度分かっているか、ということを話し合う場がないという現実があります。すぐに「削って詰める」では細菌にやられたあとの「後始末」です。大切なのは、そのイタチごっこから、悪くなった原因を確かめて改善し「よくなった現在」をいかに維持して食べ、おしゃべりをして、笑うかだと思いませんか?
お口の中は「慣れ」ということがキーワードになってます。外から異物が入ってきた場合には、髪の毛一本でもお口に入ると気持ち悪く感じる非常に敏感なところです。しかし長い間かけてなった病気はあきらかに異常でも、たとえば歯が抜けっぱなしで、アゴがずれていても、大きな歯石がべったりついていても、慣れてしまって、不快に感じないのです。病気のほうが心地よい、という不思議。この状況は、慢性疾患の原因菌にとって好都合な環境なのです。
想いを伝えたい、共感したい!
あなたのお口の中でなにが起こっているか知ってみようという準備はととのっているでしょうか?確かに治療をすれば痛いこともあります。費用も時間もかかります。しかし「想い」を伝える、あなた自身の考え、「あなたらしさ」を伝えるのは口なのです。
さてここまでお読みになって、私にどのような感想や、イメージを抱いてくださっているのでしょうか。
「へえ、そんなこと思いながら仕事をしているのか。」「先生なんてかしこまっているけど、意外と普通だな。」
そんなふうに感じてくださっていたら嬉しい限りです。
いかがでしょうか。あなたはいま、何を感じていますか。どんなことを想っていますか。想いを伝えるお口。またその健康を維持する。素晴らしいことだと思いませんか?
著書の紹介
Introduction of the book
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〜《長い人生 もう歯のことで悩まない》 一生涯食事を楽しみ、不自由なくおしゃべりを楽しむことのできる人生 そのための世界標準である歯科診療「包括的歯科診療」を知ってください 〜
日本の保険診療による歯科治療では「痛いところだけ」「気になるところだけ」を治す対処療法となってしまうのが欠点です。
包括的歯科診療とは歯科疾患の本質的な原因を突き止め、原因に対応した適切な治療方法を患者さんに提案して治療をすすめていく世界標準の歯科治療です。
その包括している6つの内容が「予防歯科診療」「虫歯治療」「歯周病治療」「精密歯科(マイクロスコープ)治療」「歯列矯正」「インプラント」。
この本では包括的歯科診療とはなにか、その考え方とあわせ、具体的6つの診療内容もわかりやすく説明しています。-
【目次】 【はじめに】 あなたは今お食事を楽しめていますか?おしゃべりするのに不自由はないですか? 【第一章】 包括的歯科診療とは 【第二章】 予防診療 【第三章】 歯周病 【第四章】 歯列矯正 審美歯科 かみあわせ 入れ歯について 【第五章】 インプラント 【第六章】 精密歯科治療(マイクロスコープで行う治療) 【第七章】 包括的歯科診療を受けるためのいい歯科医院の選び方 【あとがき】 私がなぜ歯科医師になり包括的歯科診療を実践しているのか -
タイトル 包括的歯科診療とは ーインプラント・歯周病治療から歯列矯正まで 著者 三串 雄俊 著 出版社 インサイド・パブリッシング 発売日 2018年08月 発行形態 単行本 税込価格 1,080円
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「もし年齢50代で歯がなくなったら!? 残り30年もの人生は……」
おいしい食事や楽しいおしゃべりは健康なお口でいればこそできることなのです。この本は、長寿の日本人だからこそ知っておくべき歯周病・インプラント・かみあわせの基礎知識を30分程度で簡単に読めるようわかりやすくまとめました。
当院の院長 三串は日本の医大だけでなく、アメリカ、スウェーデンのインプラント先進国からも技術を取得しているインプラント施術の精通者です。その豊富な専門知識と診療経験をもとに『歯』と『歯の治療』についての情報を伝えています。健康なお口でいたい方におすすめの本です。-
【目次】 まえがき あなたはいまお食事を楽しめていますか?おしゃべりはたのしめていますか? 第一章 歯なしになりそうな話 第二章 「かみあわせ」と「しあわせ」 第三章 なぜ私がこの本を書いたのか 第四章 噛むで人生カムバック 第五章 あなたの疑問にお答えします! おわりに -
タイトル 人生の楽しみを損しない、かみあわせでしあわせに
〜30分でわかる!安心の歯周病・インプラント治療〜著者 三串 雄俊 著 出版社 インサイド・パブリッシング 発売日 2012年01月 発行形態 単行本 税込価格 780円
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資格 | |
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日本歯周病学会専門医 | 日本口腔インプラント学会専門医 |
OJ正会員 | 国際口腔インプラント学会認定医 |
日本顎咬合学会咬み合わせ認定医 | 厚生労働省臨床研修指導歯科医 |
歯科人間ドック学会認定医 | 血液成長因子応用・組織再生臨床認定医 |
口腔医科学会認定医 | インビザライン公認ドクター |
受講セミナー | |
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アメリカ・ペンシルベニア大学歯周病・インプラント研修 | スウェーデン・イエテボリ大学歯周病・インプラント研修 |
フランス・パリ審美インプラント研修 | スタンダードエッジワイズ2年間コース研修 |
山下矯正会研修 | MEAW MIA矯正コース |
舌側矯正コース | デーモンシステム研修 |
アクアシステム研修 | インビザライン研修 |
OJプラスティックサージェリーコース | OJボーンオーギュメンテーションハンズオンコース |
アストラテックインプラントベーシックコース | ストローマンインプラントコース |
インプラント100時間コース | 国際口腔インプラント学会ハンズオンコース |
インプラントガダイバーコース | インプラントティッシュマネージメント |
全身管理セミナー | ソフトティッシュグラフトコース |
歯周外科研修 | 歯周再生治療研修 |
エムドゲイン研修 | 歯周内科研修 |
カリソルブトレーニングコース | SJCDマイクロスコープコース |
SJCD原宿マスターコース | ジャパンオーラルヘルス学会セミナー |
所属 | |
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日本歯周病学会 | 日本口腔インプラント学会 |
日本矯正歯科学会 | 日本成人矯正歯科学会 |
日本顕微鏡歯科学会 | 日本審美歯科学会 |
日本顎咬合学会 | 日本歯科保存学会 |
OJ正会員 | Academy of Osseointegration Active Member |
国際口腔インプラント学会 | 国際歯周内科学研究会 |
東京医科歯科大学・歯周病学分野 | 東京大学・口腔顔面外科・矯正歯科 |
東京SJCD | 山下矯正会 |